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考察:サンセベリアと植物育成LED

  • 植物育成LEDについて考える
  • まず大前提として、『どんな植物育成LEDでも使えば日光の代わりになるというわけではない』。現状の植物育成LEDは条件をかなり限定してどうにか日光レベルまで到達するが、そうでなければ日光の補助光でしかない。つまり日光に当てるという最高の手段を(頻繁に)とることができない環境において、どこまで妥協するかという話である。
    • 詳細は植物育成光環境に譲るが、冬晴天AM11時の軒下の太陽光の環境(上向きで65000lx)と同程度の光の強さにするには、距離15cmでE26口金植物育成LEDを3個直射してどうにか追いつけるといった具合である。
    • ただし、太陽光の強さは天気や時間によって大きく影響を受け、また、植物の形状によって太陽光の照射を効率的に受けられるとも限らない。瞬間的な光強度としては及ばなくても長時間一定の強さの光を効率的に浴びせることで光の弱さを補うことはできる可能性がある。
    • 上記の例でいえば65000lxで3時間しか太陽光が当たらない環境と、20000lx程度で9時間安定して光を当てられる環境では光合成に必要なエネルギーとしては同程度あるということになり、必ずしも太陽光と同程度の光強度が必要というわけではない。
  • 日光に当てることができない理由は大きく分けると以下の3つが考えられる
    • 日光に当てることができる環境がサンセベリアにとって過酷な環境である(高温多湿の日本の夏季、低温の冬季等)
    • 日光に当たる場所を確保ができない(地理的なものだったり、集積の都合であったり)
    • 斑入り部分が多い、または遮光ができない理由があるため、日光では葉焼けしてしまう
  • このうち、冬季に関しては休眠させることで、光合成する環境の必要性をなくすというアプローチをとることもできる。なお、原生地は年中暖かいため、サンセベリアは休眠の必要はない。したがって冬季に休眠させることで春以降サンセベリアが元気になるというのはないと考えられる。
    • 冬に休眠させた方が春以降成長が活発になるという主張は、"冬に休眠させずに人間の生活空間程度の光しか当てずに後述する光補償点を下回っている環境"と比較して"休眠させた方が活発であった"可能性が考えられる。
  • 現代の日本の人間の生活する室内環境(以降現代日本の環境と省略)において、サンセベリアが休眠する温度で生活することはあまりないと考えられ、休眠させるか休眠させないかは昔より難しい選択になったとも言える。
    • サンセベリアの休眠気温(室温)は10度。15度以下で活動が緩やかになると言われる。
  • 休眠をさせない場合、サンセベリアはある程度の光合成を行うと考えられ、光補償点を考える必要が出てくる。

サンセベリアと光補償点

  • 光合成を行う植物には、光合成で生産する必要なエネルギーと生体維持に必要なエネルギーが拮抗する光補償点という光量が存在し、これを下回ると徐々に弱って枯れていく。したがって、休眠させない環境で、弱らせないことを目的とするのであれば、光補償点を超える光を与える必要がある。
  • この光補償点は植物ごとに違い、光補償点が低い植物は耐陰性があると言われ、逆に光補償点が高い植物は耐陰性がないと言われる。
  • サンスベリアは比較的耐陰性があると言われ、光補償点が比較的低い。参考として光放射の作用によると、サンセベリアの光強度は1000lx-2000lxとあり、サボテン・多肉植物のグループでは群を抜いて低い光強度でよいことがわかる。
    • ハオルチアも岩陰などに自生するため、多肉植物の中では耐陰性は比較的高いと考えられる
  • 光補償点を把握すれば、部屋が暗くて観葉植物がうまく育たないってことがなくなります。によれば、1000lxとはパチンコ屋店内、2000lxは商業施設ショウウィンドウということになる。もっとも上記の光放射の作用で記載されているのは育成において必要な光強度であり、実際にはもう少し暗めでも光補償点自体は超えられると考えられる。
  • 日光でいえば、夏の直射日光が100000(10万)lx、冬の晴天が20000〜50000lx、曇り空の軒下や日光の入る室内窓辺が6000-9000lxとなり、多くのサボテン・多肉植物は最低でも軒下ないし日光の入る窓辺までいかないと健康的には育たない。
    • なお、園芸用語での半日蔭は遮光率1/3~1/2程度の状況を指し、夏に半日蔭というと33000lx~50000lxで冬の晴天相当の明るさ、明るい日陰は5000-10000lx程度で軒下や日光の入る室内窓辺程度と考えられる
  • したがって、気温さえ無視できれば、光補償点も比較的低く、乾燥にも強いサンセベリアは室内での観葉植物に向いているというのはあながち間違ってはいない。
    • 植物全体でみれば、もっと低い光補償点の植物はたくさんあるが、水やりの頻度等を考えるとサンセベリアほど乾燥に強い植物はそうはない。
    • また乾燥への強さだけを見れば、サボテンや他多肉植物は当然強く、場合によっては寒さにさえ強いが、光補償点が低いというのはあまりない。光補償点の低さでいえばハオルチアなどは比較的低いと考えられるが、暑さにはサンセベリア以上に弱く、また枯れないだけで徒長はしやすいように思う。
  • したがって、現代日本の環境でサンセベリアが枯れない程度の光を供給するのは比較的容易である。
    • ただし、光補償点ぎりぎりの光程度だと、光合成の際に必要とする水分も少なくなるため、春夏秋のような水のやり方をすると根腐れで枯れる。光とは別に、水やりにもまた注意が必要となる。

植物と光合成

  • 光補償点はあくまで植物が生体を維持する上での限界であり、成長するためにはそれをある程度上回る光の強度が必要となる。
  • 日本において、冬季や、春夏秋でも日光に諸々の事情によって日光に当てられないが、それでも少しでも成長をさせたいという場合、光を補う必要が出てくる。
    • なお、冬場において、休眠していないサンセベリアに水を与える頻度を下げるのは根腐れ防止であると同時に、徒長防止でもある。光合成等に使う以上の水分が供給されると、その水分を有効に活用できるように光合成をしようとして、光が十分な環境での本来の樹形とは違う形の成長をしてしまう。これが徒長である。
  • 光を補うために明るくすればいいのだろうと考えがちだが、人間の視覚特性と植物の光合成特性それぞれを考える必要がある

人間の視覚特性

  • 人間が感知できる光、すなわち可視光というものは特定の波長範囲の電磁波であり、その範囲は最大でも360nm~830nm、最小だと400nm~760nmの範囲となる。
  • その可視光の中でも、人間はとくに555nmの波長の電磁波(黄緑)を一番明るく感じるようになっている。
  • 先に出てきたlx(ルクス)は、人間の感じる明るさの程度の単位であり、単純に言えば黄緑色の波長の電磁波が多いほど明るく感じることになる

植物の光合成特性

  • 植物の光合成機構であるクロロフィル(葉緑素)がとくに強く反応して吸収を行うのが、660nm近辺(赤)と450nm近辺(青)の電磁波となる。人間がもっとも明るさを感じる555nm近辺(黄緑)というのは光合成をするための機構を効率よく動かすものではない。
  • このため、人間の生活に最適化された一般的なLED照明器具を用いて人間にとって高い明るさを実現しても、植物は効率よく光合成を行うことができない可能性がある。

植物育成LEDという考え方

  • 上述のように人間の生活に最適化されたLED照明は人間にとって効率よく明るさを提供することができる。そうであるならば、植物にとって最適なLED照明があれば、植物を効率よく育成できるのではないかという発想によって、植物育成用のLEDというものは開発されている
    • 歴史的には白色LEDの実現は赤色LEDより前であり、赤色LEDは偶然クロロフィルのもっとも効率よく吸収を行う波長を出すことができたので、人間用のLEDの方が後に開発されたとも言える。
  • 単純に考えると植物がもっとも強く反応して光合成を行う赤と青の波長を出すLED照明であれば、もっとも植物にとって効率がよいはずである。それが一般的には妖しい光と言われる紫色の発光となる植物育成LEDとなる。
  • ただし、この『特定の波長の光が光合成によって効率がよい』というのは、植物が光合成を行う際のクロロフィル(葉緑素)を単体で抽出しての実験においての効率であり、実際には特定の波長のみのケースと可視光の全領域の波長を含む光(フルスペクトル)では、『光の強度が同程度であれば』植物の成長速度は大きな違いがないという実験結果もあるらしい(LED園芸照明システムのエネルギー効率を理解するのP.13)。
  • また、​植物用LEDについてによれば、植物の光形態形成には様々な波長が影響を及ぼす。
    • なお、参考までに太陽のスペクトルは以下の図のようになっている。
      • signed_SpectralDistribution
  • こうした実験結果を踏まえると、鑑賞を目的とする観葉植物において、鑑賞を損ないやすい赤青の植物育成LEDライトをあえて使う理由は薄い。赤と青を多めに含みつつ太陽光に近づけた色合いを出す植物育成LEDや、室内照明として違和感がないことを目指した白色の植物育成LEDなどが主流なのはそういった理由もあると思われる。そもそも観葉植物を効率よく大きく育てることを目的とするのは業者とよほどのマニア以外いないため、こういったLEDの方が一般家庭やオフィス等では需要は高いと思われる。

植物育成LEDの選び方

  • しかしながら、植物育成LEDを謳う製品なら色合い以外なんでもよいかというとそういうわけでもない。次節に譲るが、どの植物育成LEDも『効果がある』と記載しているが、実際の光量に関して数倍の差があるからである。
  • また、日光に比べれば光強度が限定的な植物育成LEDであっても、光反射板によって光を集中したり、植物との距離が近すぎたりすることで、対象植物の光飽和点も超え、葉焼けする可能性がある。このため、光強度が開示されていない製品は、自分で測定するのでなければ適切には使いにくい。とはいえ、棒状3本分のPPFDをあたかも1本分で出せるかのように見せたり、照射距離を短くして計算しないと分からないようにしていたりするので、開示されていれば必ずしも誠意があるメーカーとは限らない。
  • さらに、仮に開示されている数値が正しかったとしても、そのことと自宅でそれが最適であるかは別の問題である。
    • (観葉)植物の近くに植物育成LEDを置くと、人間の視界に入りやすく、光の強さや色味が人間にとって辛い
    • 置き場所ごとに置くことのできる植物育成LEDの形状に制限がある(吊り下げる場所や器具がない・遠い、クリップで挟める場所がない等)
    • 植物への光の当て方に制限がある(例:棒状直立のサンセベリアに真上から照射しても、光は効率よく葉に当たらない)
    • 予算
    • 入荷時期

植物育成LED測定データ

  • 以下は我が家でセコニック社 分光色彩照度計 スペクトロマスターC-7000を用いて測定した結果である。
    • なお、PPFD値は光源直下の測定値であり、光源直下でない場合PPFD値は下がる。参考までに反射板なしツクヨミで光源との角度が約45度の場合、2/3程度のPPFD値となった。
  • 同じ照射距離であれば一般的なE26口金LED照明に劣る植物育成LEDはない。しかし、冬快晴時の太陽光の1150、ガラス越しの793、冬曇天の206という数値と比較すると、棒状LED1本では冬曇天のPPFDにさえ届かず、E26口金形状ライトの真下でさえガラス越し太陽のPPFDの半分程度にしかならない(ツクヨミは反射板なしでの比較)。
  • もっとも、それは太陽光と比較するからであって、サンセベリアに限っていえば、光放射の作用によれば必要なPPFDは15~30程度である。照射距離15cmでこの基準に引っかかるのはZredurney_3ヘッド1本と、おそらくGreensinDoor_20w省エネ1本、すなわち電源がUSBのものだけで、100V電源系はほぼ引っかからないと考えてよい。
    • 一般的なサボテン・多肉植物はPPFDとして70以上は必要とされるので、棒状であればhighydroLED_900個LED1本がかろうじてその基準を満たし、成長を考えるのであればE26口金型の植物育成LEDを使用することが望ましい。
  • この結果を踏まえて、どの植物をどう育成するか(できるか)を考えてもらえれば幸いである。
名称 電源 形状 スペクトル 5cm 10cm 15cm 30cm 45cm 90cm
一般的なE26口金LED照明 100V E26口金 signed_SpectralDistribution - 35.7 12.7 7.3 3.7
Zredurney_3ヘッド1本 USB 棒状・クリップ signed_SpectralDistribution 22.7
Esbaybulbs_450LED クリップ式1本 100V 棒状・クリップ signed_SpectralDistribution 96
GreensinDoor_20w省エネ2本 USB 棒状・ラック搭載 signed_SpectralDistribution 68.9
Derlights_192LED1本 100V 棒状・ラック搭載 signed_SpectralDistribution 55.6
highydroLED_224LED1本 100V(3P) 棒状・ラック搭載 signed_SpectralDistribution 60.8
highydroLED_900個LED1本 100V(3P) 棒状・ラック搭載 signed_SpectralDistribution 190.9 143.5 77.8 46
ZSHONORLIGH_20W_e26 100V E26口金 signed_SpectralDistribution 179 59.1
MORSEN LED植物育成ライト 80W相当 白色 100V E26口金 signed_SpectralDistribution 233.1
MORSEN LED植物育成ライト 80W相当 赤色 100V E26口金 signed_SpectralDistribution 370
MORSEN LED植物育成ライト 80W相当 暖色 100V E26口金 signed_SpectralDistribution 398.2
BARREL_ツクヨミ反射板なし 100V E26口金 signed_SpectralDistribution 382.1

参考