上手な教え方の教科書 - kshirotori/dokusyo GitHub Wiki
第1章 インストラクション
何かをうまく教えるための技術と科学を扱う学問がインタラクションデザイン。 物事を知りたいと思っている人に意図的に誰かが教えることがインタラクション。
インタラクション 一区切りの教える行為 コース インタラクションの複数の組み合わせ
基本原則
- 学習は多くの変数に左右される
- にもかかわらず、効果的に学習を支援する方法はある
- そして、その支援の方法は常に改善できる
ミラーの心理療法の分析を軸に考えると、教え方による効果は全体の15%しかないが、 教え方でシステム全体に変化起きる可能性があるので意味がある。
成功的教育観:働きかけることを重視する。学習が発生したかは考慮しない。 意図的教育観:学習が生じたことを持って教えたことになる
学習検証の原則:学習成果がなかった時に責められるべきはインタラクションそのもの。学習者が悪いのではない。
インタラクションを改善するためのプロセス
- ADDIEモデル:分析、デザイン、開発、実施、評価
- ラビッドプロトタイピング:プロトタイプを早く作りながら改善していく
教育工学の基盤
- 心理学
- 情報コミュニケーション技術(ICT)
インタラクションデイザインの応用
- スポーツトレーニンギュ
- 学校教育、塾、予備校
- 人材育成、社内教育
第2章 運動技能のインストラクション
技能の分類
ブルームの「頭・心・体」
- ブルームの教育目標の分類学
- 認知的領域 = 頭 = 知識
- 情意的領域 = 心 = 態度
- 精神運動的領域 = 体 = 技能(skill)
がニエの5分類
- 言語情報 = 言葉として蓄えられる知識
- 知的技能 = 何かを区別、分類、例をあげたりする技能
- 認知的方略 = 学び方そのものを使ったり、発見したりする技能
- 態度 = 行動の選択や、決断したりする技能
- 運動技能 = 筋肉を使って体を動かしたり、コントロースする技能
スモールステップの原則
スモールステップ
- 運動技能は複数の動作の組み合わせ
- 運動技能のインストラクションは単純で簡単な動作から初めて徐々に基準をあげていく
シェイピング
- 今までにやったことのない行動を獲得させること
- 10の法則
- 十分な数の強化が得られるように、基準を少しづつあげる
- ひと時に一つのことだけを訓練する
- 基準をあげる前に、現在の段階の行動を変動強化で強化する
- 新しい基準を導入するときは、古い基準を一時的に緩める
- 相手をたえず観察する
- 一つの行動は一人のトレーナーが教える
- 一つのシェイピング手続きをやっていて進歩しないときは、別のやり方を見つける
- 訓練をむやみに中断しない
- 一度できた行動でも、またできなくなることがある。そのときは、前の基準に戻る
- 一回の訓練は、できれば調子の良い時にやめる
変動強化
- 現在の段階で獲得されたスキルの中でもっとも良い行動を選択的に強化する
インストラクションは具体的に
- ラケットの中心でボールをヒットさせるために、「ボールをよく見よう」だと具体的ではない
- 「ボールの回転はどうだった?」のように具体的に尋ねることで、必然的にボールをよく見る
理論的土台:行動分析学
行動分析学とは
- なぜダメなのか原因をあれこれ考えるより、直接的に直してしまえ
行動随伴性
- 行動と共に起こる環境の変化が後の行動の出現頻度を決める
- 強化と弱化
- 好子と嫌子
- 嫌子:行動頻度が低くなった時に、そこに出現しているもの
- 叱る行為が注目をしてもらえるに繋がっている場合は好子である
- 嫌子:行動頻度が低くなった時に、そこに出現しているもの
- 4つのパターン || 出現 | 消失 | | 好子 | 強化 | 弱化 | | 嫌子 | 弱化 | 強化 |
学習とは
- 状況の変化により行動が変化していくこと(行動分析学)
続けさせる技術
強化の手法
- 即時フィードバック
- ルール支配行動
- 「続けて勉強していれば、最後の試験で良い成績が取れるだろう」という内在化したルールに従っている行動
強化のスケジュール 毎回今日かしてはいけない。いい加減になる
- 固定強化:一定時間ごとに強化する(例:月給制)
- 変動強化:不規則に(例:パチンコや競馬)
好子は少ない方が良い
- いくらチョコレートが好きでも飽きる
強化は双方向的である
- 学び手の強化は教えての強化に繋がる
やめさせる技術
不適切な行動の抑制
- 削除
- バースト
- 復帰
嫌子は効果なし
- 一時的に治るだけで不適切な行動は治らん。
対立行動法
- やめさせたい行動とは同時にできな行動をさせ、それを強化する。
- 結果的にやめさせたい行動ができなくなる
- 例)車の中で大騒ぎする子供と歌を歌う
合図法
- 合図を出したときにだけやめさせたい行動をさせ、それを強化する。
- 合図のないときはしなくなる
- 例)0「10秒だけ大声を出そう」(合図)を何度か繰り返す(トレーニング)
他行動法
- やめさせたい行動以外の全ての行動を強化する
- 例1)子供がうるさかったら静かになるまで待って、「今日は静かにしているから、ハンバーガー屋さんに行こう」という。
- 例2) 変な癖がテニスのフォームについていたら、良いショットだけ褒める。
応用デザイン
個別化教授システム
- アメリカの大学の学力低下に対して大学の授業をいかに確実なものにするかという課題に対する提案
- 原理
- 独習教材を使って、個別に進める
- 自己ベースにより学習を進める
- 単元を完全習得することによって次に進む
- プロクター(教育助手)が助言とテストを行う
- レクチャーは学生の動機付のためだけに行う
- 最終的な評価として最終テストを行う
ゲームはなぜ面白いのか 行動分析学の枠組みで分析すると、学びが得られる設計になっているから
- うまく行った、失敗したがすぐにわかる(即時フィードバック)
- あるレベルのスキルをマスターするとすぐに次がある(スモールステップ)
第3章 認知技能
説明のための技術
認知技能 = 言語情報 + 知的技能
- 知的機能を発揮するためには、蓄積された言語情報が必要 (ガニエ)
ブルーム | ガニエ |
---|---|
頭 | 言語情報 |
知的技能 | |
認知的方略(本章で省略) |
長期記憶と短期記憶
- 人の記憶は 短期記憶(作業記憶)と長期記憶 がある
- リハーサル(繰り返し)によって短期記憶から長期記憶に移す
覚えやすくする
- 短期記憶の容量の限界は7±2ユニット(できれば3ユニットに抑える)
- 意味のあるまとまり(チャンク)で覚える
- 精緻化リハーサルで長期記憶に移す
- 別の事柄に結びつける(語呂合わせ)
- 繰り返し(維持リハーサル)は長期記憶に移る確率が低い
- ネットワーク構造を利用して他の記憶と結びつける(精緻化)
- 何らかの基準で分類・整理する(体制化)
- 二重符号化
- 言語 + イメージを使う
論理的土台:認知心理学
適切に働くプロダクションを自分の記憶の中に生成していくことが、認知心理学からみた学習である。 認知を科学的に扱う
- 内観報告
- 今、自分が何を考えているかを他人に報告する
- 発語思考
- 何かを考えると同時に喋ってもらう。
- 訓練すると短期記憶の内容を即座に喋れるようになる
宣言的知識と手続き的知識
- 長期記憶の種類のこと
- 宣言的知識 = 事実
- 手続き的知識 = 活動をどのように実行するか
- 自動化された知識(自転車の乗り方など)は言語化困難
- プロダクション
- if thenの形のルール
- 我々の思考過程はプロダクションの選択とそれに従った判断し実行するモデルと表現できる
認知を変える技術
学び手がすぐにはできるようにならない理由
- 一度間違えて覚えると修正が困難
- 正しい知識の異なる状況への応用が困難
- 問題自体が複雑で分解しながらとく必要がある
- 自分の置かれている状況の分析が難しい
- 練習が足りない
間違える理由がある
- プログラムやスキーマ(プログラムの集合)が獲得されていない、間違っている場合がある。
- 教えては間違いの原因を探す必要がある。
- スキーマ
- スキーマとは関連したプログラムが集まった大きな枠組み(例:レストランの注文)
- 一度獲得したスキーマは修正が難しい(固定概念、思い込み)
応用できない理由がある
- 領域固有性
- 文脈が変わると応用できない
- 転移
- 領域を飛び越えてプログラクが利用できる
- 教える際は転移可能にすることが必要
- 不良構造化問題
- 作文のように問題全体の構造が複雑に絡みあう => 短期記憶に収まらない
- 一度に行う作業に集中することで不良構造化問題から良構造化問題に転換する
領域固有の知識 | 領域固有でない知識 | |
---|---|---|
特徴 | リアルな状況で少しづつ蓄積 | 一般的に使えるように抽象化 |
保持期間 | 強く長い | 弱く短い |
例 | 学校で教えられる知識 | |
備考 | 学校で教えられる知識はテストでは点が取れるが、実生活に応用できない領域固有性もある |
メタ認知
自分の心的過程をモニターし、コントロールする能力。
自分の状態を把握できることは、学習する上で重要。
メタ認知の機能
- 自分の行動の結果を予測する
- 自分の行動の結果を評価する
- 自分の活動の進捗をモニターする
- 自分の活動が現実に対して合理的か確かめる
熟達
注意を払わずともできる状態
最低で5000時間が必要
応用デザイン
アンカードインストラクション 転移しやすくする工夫をした教え方 ある程度複雑で現実感のある状況設定の中で、抽象的な計算や考え方を現実に当てはめていく学習スタイル
第4章 態度のインストラクション
態度そのものは教えられない、状況的学習で居場所を獲得し、
居場所がわかれば自分が何をすべき(=態度)がわかるようになる
態度とは何か
運動技能と認知機能をコントロールする機能をもち、選択して実行する心理的プロセス ガニエの態度の定義
- ある物事や状況を選ぼう/避けようとする気持ち 態度の操作的適宜
- 態度の測定は目に見える行動で定義する
態度のインストラクションは直接することはできない。
態度は特定のコミュニティの振る舞い方を含む価値体系で経験によって学ぶ。 知識として持っていても、本人が採用するか否かが問題である。
理論的土台:状況的学習論
様々は場での状況から何かを学ぶことができる。
- アフォーダンス
- 環境が人間に影響を与える
- 知識や能力(内的)と環境の中にあって処理を制約するアフォーダンス(外的)の相互作用が人の反応や行動を決める
正統的周辺参加
学習過程の捉え方
行動分析学や認知心理学 | 正統周辺参加 |
---|---|
知識やスキルの獲得 | コミュニティへの参加 |
状況的学習論から教えることへ
認知的徒弟制度
- モデリング:手本を見せて学ばせる
- コーチンング:ヒントやフィードバックで教える
- スキャルフォルディンぐ:手助けの範囲を限定していき、独り立ちを目指す
- フェーディング:学習者が独り立ちできるようになったら手をひく
状況的学習の問題(伝統的徒弟制の弱点)
- 一つのことを一つの方法でしたできない
- 全体の知識を体系化できない
- 応用効かない
非状況的学習の問題(学校カリキュラムに見られる弱点)
- 動機を見失う
- 習ったことの現実生活への適用方法がわからない
- 抽象的な知識は使わないと忘れる
応用デザイン
非状況的学習に状況的学習を元にした工夫をするといい。
ゴールベースシナリオ
- シナリオの中で学習者は与えられた役割を果たすことで学習する。
- 事例ベース推論
- GBSの背景にある学習理論
- 予測から外れることによる失敗から学ぶ
- GBSの背景にある学習理論
PSI、GBSの比較
PSI(個別化強化システム) | GBS |
---|---|
知識とスキルは全て単元化され一つ一つ完全習得学習していく | 具体的な事例と達成すべき目標が明示される。知識はスキルは目標の達成に必要なもの |
アンカードインストラクションとGBSの比較(シナリオの役割を重視することは共通)
- アンカードインストラクション:一般的な知識を意味のある文脈に結びつける
- GBS:リアリティのある状況の中で発揮されるパフォーマンスそのものを目指す。
実践コミュニティを作る機能
オンラインで人工的に実践コミュニティを作るためのコツ
- コミュニティの存在、領域、活動を説明するホームページ
- オンライン・ディスカッションのための話し合いの場
- 研究報告書、ベストプラクティス、企画などの文書を集めたリポジトリ
- 調べ物をするための検索エンジン
- メンバーが領域内で何を専門としているかの情報を載せた会員名簿
- リアルタイムでの共有空間、遠隔会議
- コミュニティ管理ツー:誰が積極的に参加しているか、どの文書がダウンロードされているかなどを調べるツール
第5章 ニーズ設定とゴール分析
コースの要素
- ニーズ
- ゴール
- リソース
- 活動
- フィードバック
- 評価(コースの有効性の確認)
ニーズ分析
4つのニーズのバランスが大事
- 学習者のニーズ(重視)
- 組織のニーズ
- 社会のニーズ
- 専門領域からのニーズ
ゴール設定
- ゴールは計測可能である必要がある
- 計測不可能:~を知る、~を理解する、~に親しむ
- 計測可能:〇〇について知っていると言ってもらう、プログラムを作ってもらうなど
- 教育ゴール
- どんな時に(条件)
- どんなことが(行動)
- どの程度できれば良いか(基準)
- ゴール分析
- 下位のゴールに分解する
- 階層型
- 例)サーブをうつは、「足の位置を決める」「ボールをトスする」「ラケットを握る」「次に備えて構える」に分けられる
学習者分析
学習者がどういう人かをしることで効果的な学習方法を導きだす
- 既有知識
- 態度:無関心 or 積極的 or どうでも良い
- ニーズに気づいていないならニーズを示す
- 動機があるか
- 期待 x 価値 -> 動機づけ
- 期待 = うまくできるか = コースの難易度が適切でないと効果が下がる
- 価値 = コースの内容 = 内容がないよーでは意味がない
- 学習スタイル
コンテキスト分析
知識やスキルが現場で使えるように、学習コンテキストをパフォーマンスコンテキストに関連付けてデザインする必要がある
- 学習コンテキスト = コースが実施される環境
- パフォーマンスコンテキスト = 技能が発揮される現実的な環境
事前、事後テスト
- 前提テスト:コースを受ける準備ができているか確認
- 事前テスト:受講前に学習者が既に習得している技能の確認
- 事後テスト:ゴールが達成できたかを確認
- 模擬テスト(中間テスト):コースが長期にわたる場合に実施する
- 学習者の習得状況を確認し、誤解がないか確認する
- ペースが速すぎたり遅すぎたりしてないかを確認する
第6章 リソース、活動、フィードバックの設計
導入
3つの機能
- ラポールの形成(教えてと学び手の関係)
- 方向付け(どこに向かって進んでいるか)
- 動機付け(学びてとの関連性はどこにあるか)
ラポーツの形成方法
- 教えて自身の自己紹介やバックグラウンドを紹介する
- 教えてが、どのような意図でコースを提供しているかを説明する
- 教えてが、学び手にどのような成果を獲得して欲しいかを説明する
リソースの設計
学習資源
- 教科書、レクチャー、議論など学ぶ環境に存在する情報全て
活動のデザイン
学習者中心主義
- 学習者に責任を積極性を持たせて学習者自身に学習を制御させる
- 教師の役割は学習活動のデザインとモニター
コーチ、メンター、ファシリテーター
- 学習者と教師の間を埋める
- 学習者の支援が役割
受動的な学習を能動化する
- レクチャー、テキストに質問するなどの能動的な行動を与えて学びを強化する
- 受動的な学習 < 能動的な学習
グループ討論、実習、ロールプレイも受動的になりかねない
- 言われた通りやる、同調するでは受動的で効果が薄い
- 反論するなどの課題を置くなど、能動的な活動に結びつくように活動をデザインする必要がある
能動的な表現方法を用いる
- 書く、話す、プレゼンする
フィードバックのデザイン
フィードバックの重要性
- フィードバックは学び手が適切に学んでいるかを知るすべである
フィードバックの3つの働き
- 強化としてのフィードバック = フィードバックにより行動が強化または弱化(行動随伴性)が生じる
- 情報としてのフィードバック = アクションが良かったのか悪かったのかの情報
- コミュニケーションとしてのフィードバック = 人間関係の形成するコミュニケーション
強化としてのフィードバックデザイン
- 即時フィードバックが重要
- 望ましい行動を増やすか、問題行動を減らすかのためにフィードバックする
情報としてのフィードバックのデザイン
- 結果に解説などを付け加える
- 知識の精緻化、体制化が進む。
コミュニケーションとしてのフィードバックのデザイン
- 学習全体に対するフィードバック
- 学びかたの疑問や、学習状況に対する不安をアクションとしてフィードバックする
第7章 評価の設計
インタラクションデザインにおける評価
評価の2つの側面
- 学習者の最終的なパフォーマンス
- テストをしたり、実際のパフォーマンスを実演してもらったりする
- コースの評価
- コースの問題点や改善点
学習者検証の原則
- コースは学習者の学習成果によって評価される
学習成果の測定
転移テスト
- 応用問題でテストし、転移が起きているかを確認する。
- 学んだ内容が現実世界で使えねば意味がない。転移ないのであればコースがうまく設計されていない。
できるだけパフォーマンスコンテキストに近い形でテスト
- = オーセンティックな評価と呼ぶ
ウォッシュバック効果
- テストの内容がわかると、最後に受けるテストが学習活動に影響を与える
- 例)センター試験
学習体験の測定
ARCS動機付けモデル
- 学習体験の測定方法
- 4つの観点で分析し対策をうつ
- 学習者の注意を引くか(Attention)
- 学習者とコース内容の関連性(Relevance)
- 学習者に自信を持たせlうまくできそうという感じを持たせているか(Confidence)
- 学習体験を通じて満足感を得ているか(Satisfaction)
態度の変化の測定
副産物としての態度の変化
- 「できるけど、嫌い」や「完全にできないけど好き」などもアリエル
- できるけど、嫌いでは将来的な可能性を狭めていることになる
- 押し付けられた感覚をを持たせないようにするのが大切
- チャレンジする問題を学習者に選ばせるなどの楽しめる工夫など