祥子が病気になって以来 - asamesi/mae GitHub Wiki
新子も、祥子が病気になって以来、一度行ったことのあるテニス・コートの前のブレッツで、クリームを買いたいと思いながら、そのままになっているので、同行することにした。 三人は、森を抜けて、陽のよく当る白い径を、旧道の方へ歩いた。 彼女の愛人の美沢は、早く父を亡くして母親育ちであるだけに、お洒落な細かい動作が、身体にしみついていて、いかにも美青年らしく見えたが、この青年はいかにも健康な、スポーツででも鍛えたらしい若人という感じがした。 話しぶりも、明るくて、気が置けなかった。 新子も、本来の明るいのびのびした気持に還っていた。 旧道に出て、洋服屋や、野菜店や、家具店などの小さな街を歩きながら子爵は、 「南條さんは、僕の名前ご存じないでしょう。木賀逸郎といいます。どうぞよろしく。」と自分で正式に紹介した。 「はア、私は南條新子と申します。どうぞよろしく。」と、新子がすっかり親愛の度を深めた微笑で、答えると、小太郎が傍から、 「逸郎兄さんは、愛嬌がいいんだってさ。」と、いったので、子爵は急に真赤になって、 「小太坊、生意気なこというな!」と云った。 「だって、ママがパパにそう云ったんだものオ……」と、小太郎はすましていた。 コートのスタンドは、ほとんど外人ばかりだった。 子爵は、知合いらしい亜米利加人夫婦と何か隔てなく、話し合っていた。新子は、子爵の英語を相当なものだと感心して聴いていた。本 買取