母の気持はそれに違いないが - asamesi/mae GitHub Wiki

 母の気持はそれに違いないが、彼は、そういう母があわれでしようがなかつた。 「誰もお父さんになんぞ言やしませんよ。だけど、お父さんも案外、腹をきめてるかも知れませんよ。少くとも、それぐらいは大胆に見るんじやないかなあ。そうでしよう、お父さんは、もう二度失敗してるんですからね。三度目は気をつけなくつちや……」 「そうだよ」  と、母は、大きくうなずいた。 「お父さんもだんだん折れて来なすつた。時代がすつかり変つたんだから……」  すると、多津が、しんみりと、 「いゝわねえ、お母さんは……。時代が変つても、それほどお驚きにならない修業ができていらつしやるから……」 「そうともさ。あたしにや、自分の時代なんてものはなかつたんだもの」  これは皮肉な名言であつた。彼も、多津も、顔を見合わせて、苦笑した。 二  一週間たち、二週間目がもう終ろうとするのに、小諸の療養所からはなんの音沙汰もなかつた。急変がない限りという医者の言葉が思いだされ、この病気も、時間が有利に解決するという場合があるらしく思われた。それゆえ、二週間を経てなんの音沙汰もないということは、すくなくとも、意を強くするに足る事実ではないか、と、自分に言いきかせた。  こういう矢先、会社の経営が急に困難になりつゝあるという寝耳に水の情報が、父を通じて彼にはいつた。 「それや、いつたい、どういうわけなんです。僕の工場だけは、立派に採算がとれているはずですよ」立川市 リフォーム