小高い砂丘の上 - asamesi/mae GitHub Wiki

「舞台は、小高い砂丘の上へ国民学校の教壇を据ゑるんださうだ。ところで、学校はあの山の向ふ側だつていふから、誰が運ぶか知らんが、こいつはひと骨だよ」 「とにかく電線と出入の幕だけ張つとかう」  一同は隊伍を組んで海岸の道を進んだ。  仕来りといふものは面白いもので、なるほど場所は誂へ向きの露天劇場である。  一帯に浅い盆地になつてゐる砂浜の、正面は松の木立を背にしてやや平たく自然の台地をなし、見物席はなだらかな斜面の半円を形づくつて波打際に近い丘陵の頂に続いてゐた。  海の風が容赦なく砂を捲きあげた。  まばらな青草のなかに立枯れの薄の穂が二三本やけに頭を振り、鳶の群が舞ひ降りようとして、あはてて方向を転じた。  舞台用の教壇が来るまで、しかし、誰も何もすることがない。ボウフウの採集をするものがある。美しい貝殻を探すものがある。若い男女は潮水に足をひたして騒いだ。と、やがて、誰かの声で、 「やあ、来た、来た……」  一斉に視線がその方角へ向けられる。  中腹まで畑になつてゐる山の陰に、一筋の道がついてゐる、その道を登りきつたあたりであつた。ちやうどビスケツトに蟻がたかつたやうに、大きな箱形のものを真ん中にして、その前後左右をうろうろと一団の人影が動いてゐるのが見える。  そして、それは悉くモンペ姿の女であつた。 新宿 美容室