富も位置もあり - asamesi/mae GitHub Wiki
新子は、富も位置もあり、教養もあり、容貌にも健康にも恵まれている青年が、前川別荘に来て、高慢な夫人の、相手をしているなど、本当に夫人が好きなのであろうか。それとも、愛人がないので閑暇なんだろうか。どちらにしても、何だか少し気の毒のように思った。 しばらく見ていると、青年はズボンのポケットから新しい四角にたたんだ麻のハンカチーフを出すと、新子に渡して、 「顔を掩うていらっしゃい。洋服ならいいけれど、和服で日焼けなさると、お困りになるでしょう……」といった。 新子は、笑いながら、大きなハンカチーフを拡げて、頭から天蓋のようにしながら、 「安心しましたわ。貴君には、やっぱり愛人がおありになるんだわ。」と、初めて、本当の親しみを見せて、スパリとした口のきき方をした。 「なぜです。」青年は、驚いたように訊き返した。 「だって、レディにご親切だから……」 「じゃ、今までは僕に愛人なんかいないだろうと、心配していて下さったんですか。」 「だって、あまりお閑のように、お見受けしましたの、ほほほほ。」 いたずらいたずらした新子の眸が、相手の言葉を誘い出すように輝いた。