婦人大会の司会者 - asamesi/mae GitHub Wiki
婦人大会の司会者はもちろん安治川菊子女史であった。女史は洋装して堂々たる態度をもって処女演説を試みた。 「――お集まりのみなさん、男子の文明はすでに腐敗しております。我らは新しい勇気をもって、女性文化を創造すべきだと思います。その第一の事業として、我らのなすべきことは、大阪市の煤煙を征服することであります。(拍手起る)このために、大阪市は世界一の嬰児死亡率を持ち、生れた赤ン坊千人のうち毎年三百人近くも死んでしまうのであります。私たち、母たるべきもの(「母」と言いかけたがちょっと遠慮して)は、このために徹底的に戦わねばならぬのであります。(大拍手)それについては私らは間接行動ではダメであります。直接行動によるよりほかに道はありませぬ! 」 「弁士、注意! 」 と屏風の裏に隠れている臨監の警部が注意する。聴衆は沸騰する。 「横暴! 」 「横暴! 」 の声が満堂を揺るがす。 菊子嬢は聴衆を鎮めて、 「ただ今のは、中止ではありません。注意であります……ご心配なく。私たちはたとい中止を受けたところで、恐るるものではありません。私らは死線を越えて徹底的に戦う積りであります。私らは、大阪市をこの煤煙の圧制より解放するために死も辞するものではありません。 ……それでなくても、肺病で殺されるのでありますから、煙の中で殺されるくらいならむしろ煙と戦って倒れるほうがよいと思います」 こう言って演壇を下ったが聴衆の中には感動のあまり、 「空中征服の女神! 」 などと叫ぶ青年もあった。蒲田 歯科 http://bbs.cyber-mode.jp/?id=kannan