何れまたこの話は - asamesi/mae GitHub Wiki
男 何れまたこの話は、この次の機会に……。どうです、この絆創膏を一つ……二十銭です。 底野 いや、折角ですが、絆創膏はあんまり……。注射は自分でやらないもんですから……。 男 傷をされた時には如何です。 底野 傷をするくらゐなら、針で縫ふぐらゐのやつをやるですからなあ。 男 早くして下さい。征露丸を一袋、それぢや……。 底野 征露丸つてやつは、僕の知つてる車屋が買つたつていふんですが、あんまり効かんらしいですな。熱なんか、なほ高くなるつていふぢやありませんか。 男 そんなことはありません。さあ、早く願ひます。連れが待つてますから……。これが三十銭……。 底野 もうなにか、ほかに変つたものは……? 男 これだけです。さあ、どつちでも……。(頻りに後ろを振り返り、不安な様子を見せる)いらないんですか。 底野 もう少し考へませう。 男 勝手にしやがれ。(さう捨白を残して、逃げるやうに立ち去る)
底野、あつけに取られ、元の位置に帰り、ごろりと寝転がる。
底野 勝手にしやがれ。云はれなくてもさうするより外はないが、あゝいふ人間を作つたのも、かういふ人間を生んだのも、これ、もともと人間の罪だ。征露丸を押売りするのも、それが買へないで、つまらんお喋舌をするのも、国を思ふ同胞の浅ましい姿だ。おや、何時の間にか飛田の調子が出て来やがつた。寝起きを倶にするつていふのは恐ろしいもんだ。
この時、飛田が、洋服を泥だらけにして帰つて来る。 福岡 歯科