一時たたぬ中 - asamesi/mae GitHub Wiki
一時たたぬ中に、婢女ばかりでなく、自身たちも、田におりたったと見えて、泥だらけになって、若人たち十数人は戻って来た。皆手に手に、張り切って発育した、蓮の茎を抱えて、廬の前に並んだのには、常々くすりとも笑わぬ乳母たちさえ、腹の皮をよって、切ながった。 郎女様。御覧じませ。 竪帳を手でのけて、姫に見せるだけが、やっとのことであった。 ほう――。 何が笑うべきものか、何が憎むに値するものか、一切知らぬ上※には、唯常と変った皆の姿が、羨しく思われた。 この身も、その田居とやらにおり立ちたい――。 めっそうなこと、仰せられます。 めっそうな。きまって、誇張した顔と口との表現で答えることも、此ごろ、この小社会で行われ出した。何から何まで縛りつけるような、身狭乳母に対する反感も、此ものまねで幾分、いり合せがつく様な気がするのであろう。 其日からもう、若人たちの糸縒りは初まった。夜は、閨の闇の中で寝る女たちには、稀に男の声を聞くこともある、奈良の垣内住いが、恋しかった。朝になると又、何もかも忘れたようになって績み貯める。 そうした糸の、六かせ七かせを持って出て、郎女に見せたのは、其数日後であった。