それや、かまはないが - asamesi/mae GitHub Wiki

可児君  それや、かまはないが、その話は、まあ、もつと、後でしようぢやないか。それより、君の、その後の様子を聞きたいもんだなあ。 泊  それこそ、何時でも話せる。僕はね、昨夕、あれを読んでから、今日此処へ来るまで、そのことを考へつゞけたんだ。――君が一体、僕といふ男を――あの時、あんなことをした男を、なぜ、あれほど寛大な心で見てゐてくれるかといふことが、僕には、どうしてもわからないんだ。 可児男  まあ、いゝぢやないか、そんなことは……。 泊  いゝや、よくない。それを聞きに来たんだ。聞かしてくれ。 可児君  今日はね、月に一回の面会日で、此の通り大勢お客さんが見えてゐるんだから、君一人と話をしてゐるわけに行かないんだ。 泊  (悄げて)さうか。しかし、もう一と言云はしてくれ。君は、あの小説の中で、僕の今の家内と、以前何処かで……(かう云ひかけてあたりに気がつきやつと)さうか……。こいつはまづいな。 可児君  まづいとも……。君は、まだ、こゝにゐる人たちに挨拶もしてゐないんだぜ。 女中  (現る。名刺を差し出す) 可児君  (名刺を見ながら)原稿なら、当分駄目だ……。あ、奥さんに一寸つて……。 女中  (去る) 夫人  (現る) 可児君  これ、用事を聞いてね、原稿ならことわつてくれないか。 夫人  (笑ひながら去る) 可児君  (更めて、泊に)さういふ訳だから、もう少し落ちついて、順序よく話をしようぢやないか。先づ、紹介をして置かう。これが、僕の友人、織部九郎君……。 泊  (それには応へず)面会日は何曜と何曜だね。 可児君  これが劇作家の織部九郎君だ。挨拶をし給へ。 泊  此の次の面会日は幾日……? 可児君  おい、君、織部君に挨拶をしろ。 夫人  (現る)あの……原稿も原稿ですけれど、一寸お目にかゝつて伺ひたいことがあるつて云ふんですけれど……。 可児君  忙しいつて云へ。 乳酸菌サプリ ランキング