しかし何を言うても - asamesi/mae GitHub Wiki
しかし何を言うても、婦人大会の呼びものはお染が久松と一緒に演説するということであった。お染は美しい唐人髷を結うたまま演壇に現れた。 「よう、お染さん! 」 「恋愛至上主義! 」 「心中の神さん! 」 「新しき女! 」 色々なことを言うて半畳を入れた。 お染は、女給同盟の人々よりさらに勇敢に清元でも歌っている調子で演説を始めた。 「――難波津の蘆辺の千鳥泣きくれて――」 ここまで言うと隅ッこにいる青年が美しい声に昂奮して、 「呂昇よりうまいぞ」と叫んだ 「人の心の浮沈み――」 「よう女雲右衛門! 」と叫ぶものがある。 誰かは「美しい女を見ると昂奮するね」と囁く。 お染は平気である。 「……高き屋に登りて見れば煙のみ、立つぞ悲しき。真昼にも、ガスや電燈の力借り、天道様の顔もみず、色青白く頸長く、青息吐息に血を混え、吐くぞ悲しき浪花津の肺病娘のうらめしき……」 満堂シーンとして、咳一つさえ聞えない。 「煙は闇と立ちこめて、道行く人は闇を行く。闇世の沙汰もとりどりに、鳥辺の山の生地獄、まだ目を閉じぬその前に、焦熱地獄のそのわめき、恋も情も煙り行く、難波の果ぞ哀れなる……」 お染の演説が清元の調子になってゆくので、お染の節に合せて、 「今も昔は瓦街、名代娘のただひとり」 とやる男もある。 お染は、そんなことに気もくれないで、先の男の節の後を引受けて、 「赤鬼、青鬼はおらねども、人肉市の強奪に、資本主義のみ栄えゆき、煙る心に安きなく、死人と肺病殖えてゆく、煙の都は死の都、死出の旅路に出る覚悟なら、いっそよいことしてゆこう。煙を断たぬその前は、初児の肺炎嘆くとも、何にもならぬことじゃいな」 「お染様、お染様、あなたはやっぱり山家へお帰りなされて下さりませ」と、はやす人間がある。越谷 歯科 http://rongo.app.noco-hp.com/