さうはいきませんのですよ - asamesi/mae GitHub Wiki

「それが、さうはいきませんのですよ。うちのひとと来たら、いつたんかうと言ひ出したからにや、誰がなんと言はうが、聴きやしませんのですよ。ですから、ご迷惑でも、旦那がちよつと顔をお出しになつて、ひと言、娘を家へ入れてやれつて、さうおつしやつてくだされば、これやもう、誰の言ふことより利き目があるんでござんすよ」 「しかし、ほんとなら、どうもそいつは、警官の出る幕ぢやなささうですなあ」 「でも、旦那、この娘が可哀さうだと思召して……」 「いや、娘さんが、町の衆と一緒に踊りを踊つたつていふことは、べつだんかまはんと思ふですがね。それがおやぢさんの気に入るか入らんかは、わたしの干渉すべきことぢやないですから……」  警官は飽くまで不干渉主義を取らうとするのだが、おかみさんは、どうしても、お上の権威にすがつて、おやぢの立腹を取鎮めようと希ふのである。 「いゝわ、もう、母ちやん……あたし、そんなら家へ帰らないわ。このまゝどつかへ行つて、死んぢまふわ」  と、おゆきは、打ち沈んだ、しかし、思ひあまつた調子で呟いた。 「なにを言ふの、おまいは……、忠さん、まあ、聴いてやつてちようだい、この娘の言ふことを……。あんたも、うちのひとの気性は知つてるでせう? あしたの朝までは絶対、機嫌を直しやしません。ひと晩ぢう、この娘をこゝへうつちやらかして、あたしだつて、のうのう寝られやしないわ」八王子 歯科