MoE - Shinichi0713/LLM-fundamental-study GitHub Wiki
概要
Mixture of Experts(MoE)は、複数の「エキスパート」と呼ばれる小さな専門AIモデルを組み合わせて動作するアーキテクチャです。 入力ごとに最適なエキスパートのみを選択的に活性化することで計算処理を分担し、共同でタスクを実行する仕組みです。
従来のAIモデル(Denseモデルとも呼ばれる)は、すべての入力に対して全レイヤーと全ニューロンを常に活性化させます。そのため、計算資源やメモリを大量に消費し推論も遅くなる課題があります。
一方、MoEを採用したAIモデルは「ルーター(Router)またはゲーティングネットワーク(Gating Network)」が入力されたデータを適切な専門家に振り分けます。すべてのエキスパートを常に動かすわけではないため、計算コストを大幅に削減でき、数兆個のパラメータを持つAIモデルであっても効率的な運用が可能となります。
似たような言葉としてMixture-of-Agents(MoA)という技術がありますが、これは複数のエージェントを協調させる仕組みであり、MoEとは異なります。
エキスパート(専門家モデル)
MoEでは、1つの大きなモデルの中に「専門家(エキスパート)」と呼ばれる複数の小さなAIモデルが組み込まれています。それぞれのエキスパートは、特定のタイプの入力やタスクに強みを持つように設計されています。
たとえば、2つのエキスパートを配置する場合、それぞれが「日常レベルの質問応答」「法律文書の処理」といったように異なる役割を担います。
エキスパートの配置に伴いモデル全体のパラメータ数は増加しますが、一度に使用するのは一部であるため計算効率は向上します。
ゲーティングネットワーク(ルーター)
どのエキスパートを使うかは、AIモデルが自動で判断します。その役割を担うのが「ゲーティングネットワーク」と呼ばれる部分です。ゲーティングネットワークが入力データを分析し、最適なエキスパートだけを選択します。
要するに、AIが自ら「どの専門家に頼めば一番良い回答を得られるか」を選択しているのです。
スパース活性化
MoEには、すべてを一度に使わない「スパース活性化」と呼ばれる仕組みが採用されています。従来のAIモデルは、すべてのニューロンや層を毎回使用するため、膨大な計算リソースが必要です。
一方、MoEでは入力に応じて必要なエキスパートだけが動くため、計算効率を高められます。この仕組みにより、大きなモデルでも現実的な計算量で運用できるのがMoEの強みです。
MoEのメリット
近年LLMの効率的な運用が求められる中で、MoEのメリットは非常に大きく、実用的な選択肢として注目されています。以下では、MoEのメリットを紹介します。
高いパフォーマンス
MoEでは、特定の領域に特化した専門家が協力することで、単一のモデルでは対応が難しかった複雑なタスクに対しても、より高い精度とパフォーマンスを発揮する可能性があります。特に、入力データの分布が多様で複雑な場合に有効です。
高精度なのに省リソース
モデルが大きく複雑になるにつれ、特にNLP(自然言語処理)やLLMでは数十億〜数兆パラメータ規模への拡張が必然となるため、効率と精度の両立が課題となります。
MoEでは必要なエキスパートだけを選んで処理を行うため、従来のDenseモデルと比較して省リソースでありながら、大規模モデルに匹敵する精度を維持できます。実際にMoEを採用するDeepSeek-V3では、総パラメータ数が6,710億個あるにもかかわらず、推論時に活性化されるのはわずか370億個です。
リソースを削減しているにもかかわらず、幅広い分野で他のLLMを上回る結果を出しています。
MoEを採用したAIモデルを導入することで、高精度・低負荷のAI処理が現実の業務環境でも可能になります。
特化的・汎用的タスクの両方に強い
MoEモデルは、各エキスパートが異なるタスクやドメインに特化できる仕組みゆえに、専門性と汎用性を両立できます。
たとえば、あるエキスパートは法律文書に強く、別のエキスパートは医療データに特化する、など各専門領域に対して柔軟な対応が可能です。また、翻訳・要約・質問応答・コード生成など幅広いタスクに対して最適な処理ルートを自動的に構築できるため、マルチタスク用途でも安定したパフォーマンスを発揮します。
専門的な処理と汎用的な処理を同時にこなせるため、企業の多様な業務ニーズに応えられます。
スケーラビリティに優れる
通常のDenseモデルではサイズを拡張すればするほど推論や学習にかかる負荷も比例的に増大します。
一方、MoEでは各専門家が特定の領域に特化できるため、新しいタスクや領域に対応する際に、既存のモデル全体を再学習する必要はありません。再学習ではなく、新しい専門家モデルを追加するだけで対応できるなどモデルの拡張性が高まります。
このスケーラビリティの高さは、モデルの持続的な成長や多用途展開を見据える企業にとって、大きなメリットといえます。