Zhang and Zhu (2011, AER) - KatoPachi/LRW2020 GitHub Wiki
Research Questions
公共財のグループサイズと寄付のインセンティブの間にどのような関係があるか?
- 理論的帰結
- Pure altruism:グループサイズの上昇は純粋利他性の限界効用を下げるので、公共財投資を減らす(free-rider hypothesis)
- Impure altruism:グループサイズの上昇は純粋利他性の限界効用を下げるので、warm glowの限界効用の相対的な影響が強くなる。warm glowの限界効用がグループサイズに応じて上昇するとき、公共財投資を増やす。
- Warm-glowの限界効用とグループサイズの正の関係に関する実証研究
- number of receipts (Andreoni 2007)
- the amount of giving by other contributors in the social reference group (Andreoni et al. 1998)
- reciprocity among peers (Andreoni 1988)
- the impact of gift on social welfare (Duncan 2004)
- prestige (Harbaugh 1998)
- the social image (Andreoni and Bernheim 2009)
- グループサイズと公共財投資の関係が調べやすいラボ実験の欠点はグループサイズの規模が現実に比べてかなり小さい。この研究は自然実験を用いてグループサイズがかなり大きい状況で研究をする。
分析アイデア
- 使用するフィールドは中国語版Wikipediaである
- Wikipediaが提供する知識や情報は完全に公共財である
- Wikipediaはすべての記事に関する編集履歴を記録しており、書き込みした人はIDでトラックすることができる
- 中国政府の中国版Wikipediaに対する国内のアクセス制限を自然実験として使う。これはWikipediaへの貢献者のサイズを縮小する完全な外生的イベントである。なぜなら、すべての人はこのアクセス制限を事前に知ることが出来ず、事後に何も説明を受けないからである。
- 国内からアクセスして書き込みしている人がいなくなる(グループサイズの減少)ことが国外からアクセスして書き込みしている人の編集行動にどのような影響を与えているかを分析する
- 最も自然実験に適している制限期間は3rd blockである
- 1st block:期間が短すぎる
- 2nd block:期間が短すぎる+制限対象が本国の一部
- 3rd block:10/31の数時間のみ中国国内の人がWikipediaにアクセスできる事態が発生している(韓国のサーバークラスターのアップグレードが原因らしい?)
- 10/31以前、Wikipediaコミュニティはこの制限期間が短いと予想していた。しかし、この出来事をきっかけにして、彼らはこの制限が長引くと予想するようになった。
- 4th block:期間が短い
- 5th block:2008年4月にIOCが北京オリンピックの開催期間中はインターネットのアクセス制限を解除するように依頼する事態が発生している(confoudingの要素)
- Potential concern:Wikipediaの記事は耐久財であり、制限が一時的という予想を持っていれば、編集者の行動はアクセス制限の影響を受けにくい
- 3rd blockの10/31のreblockがWikipediaに長期間アクセスできないという期待を形成した(らしい)
- 2006年4月に運用され始めたWikipediaの中国版であるBaidu Baikeが中国語版Wikipediaの需要を代替した事実がある(=中国におけるWikipediaの社会的利益がなくなった)。したがって、一時的な制限という予想を持っていたとしても、国外の編集者の行動はアクセス制限の影響を受けると考えられる
データ
2005/10/19以前4週間と2005/10/31以降4週間の編集履歴のデータを用いる
- この期間に9,048の記事が作成され、53,519回の編集が行われている。とくに、10,436,966文字が追加されて、4,321,112文字が削除されている。
- Wikipediaに登録しているならばそのユーザー名がIDとなる。登録していない人は接続時のIPアドレスがIDとなる。ただし、一人が複数のIPアドレスで編集している可能性があるので、分析対象はWikipediaに登録している人のみに絞る($N = 21,387$)
- Wikipediaに登録している編集者のユーザーページに関する編集履歴の情報も併せて持っている
Nonblocked contributorの識別
二つの方法を用いて、中国国外からの編集者を識別する
- Wikipediaへの編集時期
- アクセス制限される前に編集していた人のうち、アクセス制限後に1回でも編集しているならば、その人は国外からの編集者である(1,623/6,062)
- 編集文字のエンコード
- 中国語のエンコードは二種類(simplified, traditional)ある。このうち、本国の編集者はsimplifiedを使うことが多い。したがって、traditionalを使っている人は国外からの編集者である可能性が高い
- ただし、コピペなどでsimplified econdingを使う可能性も十分にあるので、編集者が追加した文字のうち50%以上がtraditionalであれば、国外の編集者であると判断する(118/1,207がアクセス制限前にも編集に参加していた)
この二つのリストを組み合わせた結果、アクセス制限前に中国語版Wikipediaの編集に貢献した国外編集者は1,707名であった。
Baseline Result
OLSとindividual FEを用いて、以下の回帰式を推定する。
$$ Contributions_{it} = \beta_0 + \beta_1 AfterBlock_t + ControlVars_{it} + \epsilon_{it} $$
- $Contributions_{it}$:一週間のWikipediaの編集貢献の指標(文字の追加、削除)の対数値
- $AfterBlock_t$:アクセス制限後なら1を取るダミー変数
- $ControlVars_{it}$:Wikipediaの編集経験年数(週単位)
アクセス制限によって、国外編集者の貢献の程度は減少している(平均的に42.8%の減少)
Heterogeneity
Warm-glowの限界効用(social effects/social benefits)によって、グループサイズの減少の効果が異なるかどうかを分析する。 筆者らは貢献自体に価値を見出しているかどうかは自身のマイページの作成の程度で識別できると主張している。 これはユーザーページの作成の目的は他の編集者とのコミュニケーションを図るものであるため、 このページを頻繁に更新している人は他の編集者と積極的にコミュニケーションをしようという動機があるはずというロジックである。
コミュニティに積極的な人ほど編集による貢献の程度が高い。さらに、アクセス制限によるグループサイズの負の効果は彼らについてより強いものとなる
Conclusions
We find a positive relationship between group size and contibutors' contribution levels. In addition, we find that contributors who are likely to care more about social benefits react to the change more strongly than those who value them less.
- 考えられるConfounderについては以下の通りに対応
- seasonal effect:2003年と2004年の同時期で分析したが有意な効果は得られなかった
- アクセス制限によってWikipediaの内容に関する議論が減ってしまった可能性:新規の記事作成をアウトカムにしても同じ結果を得られた。記事につけられるタグに基づいて論争が起きにくい記事に限定しても同じ結果となった。
- 編集者の価値観を押し付ける相手が少なったから(self-serving edits):このような編集をした場合、Wikipediaの編集権を一時的にはく奪される。そのような罰を受けた人を除いて分析しても結果に変化はなし
- 新規記事が減ったことによる編集機会の低下:アクセス制限を受ける前に作成された記事に限定しても、同じ結果を得られた
- プロキシサーバーを使って制限を迂回する人の存在:この点は実証上で対応することができない。ただし、Wikipediaがそのような行為を禁止しているので、迂回して編集している人は少ないのでは。
Zhang, Xiaoquan Michael, and Feng Zhu. 2011. “Group Size and Incentives to Contribute: A Natural Experiment at Chinese Wikipedia.” American Economic Review 101 (4): 1601–15. 本文リンク